研究紹介
ヒトの体細胞の核には、連結すると2 mにもなるDNAがきちんと収納されています。そして、各細胞のなかでは、必要な遺伝情報が必要な時に必要なだけ取り出されて利用されています。まさに神業です。ヒトに限らず真核生物では、同様のゲノム収納と遺伝子発現の制御が行われています。我々は、その不思議を解明するために様々な研究を行っています。さらに、生物の環境応答と遺伝子進化の関係についても研究しています。
I. クロマチン基盤構造の実体とその構築原理の解明
研究概要
真核生物のゲノムはクロマチンに収納されています。クロマチンの基本単位はヌクレオソームであり、ヌクレオソームは数珠状につながって太さ10 nmの繊維になり、この繊維はさらに折り畳まれてより高次の構造を形成します。そして、分裂期のクロマチンは染色体を形成して究極の凝縮状態になります。このようなゲノムの階層的折り畳みはでたらめに行われるわけではなく、厳密な制御を受けています。例えば、10 nm繊維の場合、ヌクレオソームが正確に配置される領域、ランダムな領域、またはヌクレオソームが形成されない領域が決まっています。しかし、10 nm繊維がどのように折り畳まれて細胞核や分裂期の染色体の中に収納されているかは依然として未解明のままです。我々は、細胞核にゲノムDNAを収納する際に用いられる基本的な原理を探るために、様々な研究を展開しています。
要素研究
I-1. 間期染色体構造の実体とその動態
I-2. 細胞分化に伴うクロマチンの構造変化と遺伝子発現制御
I-3. DNAおよびヌクレオソームの自己集合現象の生物学的意義
I-4. クロマチン工学の開拓
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動画. 出芽酵母全染色体の間期構造(“snapshot conformations”) J. Biochem. *2014年度JB賞受賞*(2013) |
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動画. 出芽酵母半数体細胞核内における間期染色体の態様 核小体内のクロマチン(rDNA上に形成されるクロマチン)は示されていない。当該クロマチンは空隙部分に配置される。 J. Biochem. (2013) *2014年度JB賞受賞* |
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図. ヒトのES細胞内でメチル化されるDNA配列の大部分は、メチル化前後で高次構造または柔軟性が変化する 図には、メチル化される配列の種類と存在割合(円グラフ)、ならびにメチル化により高次構造変化を示すものの割合(外側のアーチ)を示した。グラフには CpG配列は示されていないが、CpG配列は、メチル化により柔軟性が変化する(硬くなる)。Biochemistry 52, 1344-1353 (2013) |
III. 生物の環境応答と遺伝子進化
地球には多様な生物がいますが、特殊な環境に適応して生きているものも少なくありません。食虫植物もその一例で、その多くは窒素やリンの少ない湿原などに適応して生きています。食虫植物は、特異な形体の葉や茎を用いて昆虫などの小動物を捕らえ、消化・吸収して栄養分を補うという戦略で環境に適応しています。この能力は一方で、食虫植物を傷害や病原菌感染の危険にさらしていますが、我々の研究により、食虫植物は、これらのストレスに応答する遺伝子を獲物の消化にもうまく利用していることがわかってきました。我々は、生物の環境応答と遺伝子進化の関係について、食虫植物を材料にして研究しています。
要素研究
III-1. S-like RNaseの進化
III-2. S-like RNaseの系統的関係と三次元構造
III-3. 食虫植物S-like RNaseに保存されたアミノ酸残基の役割
III-4. 食虫植物S-like RNase遺伝子の発現制御機構
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